根管治療を精密に行った方がいい理由。
根管治療とは、いわゆる「根の治療」のことで、虫歯が原因で歯の痛みが生じたり、根管の中に細菌が侵入し、感染により炎症を起こした状態を改善するために、根管内をきれいにするための治療です。歯を抜かないで残すための治療です。
根尖性歯周炎(根の先の病気)の原因は細菌です。
お口の中の細菌が根管内に侵入し、感染することは難しいことではありません。
では、いつ感染しているのでしょうか?
感染のタイミングは大きく3つあります。
- 根管治療前に感染
- 根管治療中に感染
- 根管治療後の感染
根管治療前の感染は 無菌的操作(隔壁の作製やラバーダムの使用、可能な限りの器具の使い捨て等) を行い適切な濃度の消毒液を使い精度の高い根管治療により根管内の細菌の数を0に近づける事が必要です。(完全に無菌にする事は不可能です。)
根管治療中の感染を防ぐには、無菌的操作(隔壁の作製やラバーダムの使用、可能な限りの器具の使い捨て等)を行い精密な根管治療をし、 なるべく最短の回数で治療を終了し根管内に細菌を新たに感染させないこと、細菌の活動を可能な限り抑制することが必要です。
根管治療後の感染を防ぐには、根管の治療が終わったら速やかに精度の高い補綴物(かぶせもの)を装着し、術後の経過観察を行うことです。
これはアメリカでの研究結果のデータです。
根管治療 | 補綴治療 | 成功率 |
精密な治療 | 精密な治療 | 91.4% |
精密でない治療 | 精密な治療 | 67.6% |
精密な治療 | 精密でない治療 | 44.1% |
精密でない治療 | 精密でない治療 | 18.1% |
Ray HA, Trope M. Int Endod J 1995
根管治療 | 補綴治療 | 成功率 |
精密な治療 | 精密な治療 | 81% |
精密でない治療 | 精密な治療 | 56% |
精密な治療 | 精密でない治療 | 71% |
精密でない治療 | 精密でない治療 | 57% |
Tronstad L.,et al. Endod Dent Traumatol 2000
成功率の最も高いものは、精密な根管治療と精密な補綴治療をすることです。これは細菌の侵入を最も防ぐことができるからです。一方、成功率の最も低いものは、精度の悪い根管治療と補綴治療です。つまり細菌が侵入しやすいことを意味しています。
上のグラフと下のグラフの結果は同じやり方で研究されています。
興味深いのは上の研究結果と下の研究結果が若干違うところです。上のグラフでは精密な補綴が精密な根管治療よりも予後に良い影響を与えるという結果に対し、下のグラフでは精密な根管治療が精密な補綴よりも予後に良い影響を与えるという結果を示しています。
これは何を意味しているのでしょうか?そうです。どちらかが大事、ということでなく、どちらも大事、という事なのです。
精密な根管治療のみでも成功に結びつかず、精密な補綴のみでもこれもまた成功に結びつきません。
では、精密な根管治療とそうでない根管治療の違いは何でしょうか?
その違いは、まずはちゃんとした診査診断、それに科学的、生物学的な考慮に基づいた確かな意思決定力です。次に無菌的操作(隔壁の作製やラバーダムの使用、可能な限りの器具の使い捨て等)をはじめとする基本コンセプトの厳守です。
これら2つを土台にした3次元的な根管系の封鎖を行い、そうする事で難症例中の70%以上は良好な結果を得られるでしょう。初めての根管治療であれば90%を超える成功率が得られるでしょう。
精密な根管治療をしたにも関わらず感染の除去が出来ない時のみ外科的歯内療法を行います。現在のマイクロスコープを使用した外科的歯内療法の成功率は90%を超えます。精密な根管治療なしで外科的歯内療法をしても望む結果は得られません。
ところで、精密な補綴治療とそうでない補綴治療の違いは何でしょうか?
その違いは、ざっくり言えば保険か保険外かの違いです。元々手先の器用な日本人の技工士の方々の補綴レベルは材料さえ自由に選択できれば決して世界標準のレベルにひけをとるものではありません。もちろん材料を最も生かす臨床技術も大事な事のひとつです。マイクロスコープを使用した精密診療も材料の制限があっては無駄に時間をかけるだけになります。
私たちはあなたの歯を保存する事を諦めません。
抜歯を宣告された歯でも上記のような治療により保存できる可能性があるのです。
しかし、根管治療を保険のみで対応してきた日本の現状においては、世界標準から群を抜いた失敗率という結果がでています。つまり、根管治療のレベルに差がありすぎるのです。この状況を変えていかなければ、歯を失うリスクを低くすることができません。
そこで私は歯内療法の臨床と研究の分野では世界トップレベルのペンシルバニア大学歯内療法科で専門教育を受け、専門医の資格を取得された石井宏先生に師事し、1年間のペンエンドスタディーインジャパン(専門のトレーニングプログラム)を終了いたしました。また歯内療法外科の第一人者でありペンシルバニア大学留学経験もある井澤常泰先生講師のマイクロエンド実習会ベーシックコース、アドバンスコースも終了いたしました。もちろん、現在もアメリカ歯内療法学会、日本歯内療法学会、ペンエンドスタディークラブインジャパン(スタディークラブ)に所属し、最新の技術とコンセプトの習得とアップデートは欠かしておりません。
自分の歯をできるだけ再治療せず、長期に抜歯しないようにするために、精密根管治療という選択肢も考えてみてください。歯を本当に大切に考え、価値を感じてくださる患者様には、こうした治療があるのだと分かっていただきたいのです。
精密な根管治療には1回の治療時間が60分~90分かかります。
使用器具、薬剤は保険の根管治療では使用しない、特殊なものを使います。
マイクロスコープ(手術用顕微鏡)を使用し、これまで見えなかった根管内を確認しながら治療します。
初めて神経を取る歯の根管治療には特に精密根管治療を推薦いたします。なぜなら、今後の再発のリスクを軽減するために、最初が最も肝心だからです。
一本の歯を大切に残したい、大事にしたい、という患者様に少しでもお力になれれば、と思います。
また、難症例でお困りの先生のお手伝いが出来ればと思っております。